つづき
2021-2-13 02:33
バレンタイン2021(闇表)/2.end
『いいか、触手プレイの醍醐味は外から内だぜ!指先から手の平、手の平から肩。そして足先から足首、膝、太もも!それぞれの部位を堪能し、舐めるようになぶり、おっと、焦るなよ、まだゲームは始まったばかりだぜ?恥辱が快楽に変わっていないうちはまだ愛撫が足りないぜ!指の間や鎖骨も忘れるな。それぞれの性感帯を刺激し、完全なトロ顔になったら、胸板や下腹部を撫でる。間違っても局部には触れるなよ。そんな簡単に果てさせたら楽しくねーからな、フフ…。触手で優しく撫でるだけだ。ゆっくり…じわじわ…。すると縛られていた奴はどうだ。不思議とさっきまで気持ち悪いと思っていたものが欲しいと思うようになる。恥ずかしいという思いももう考えられないくらい頭は真っ白。イキたいって衝動で脳が支配された奴はどういう反応をするかわかるか?向こうから泣いてすがってくるんだぜ。この触手が欲しいとな!それが理解できないうちは雑な触手プレイなんかするんじゃないぜ!チンカス野郎!!!』
「めっちゃ喋る」
痛烈に敵の触手プレイを批難したもう一人のボクが、そうだろ相棒!と言わんばかりに、勝ち誇った顔で振り返る。知らないしキミの性癖も知りたくなかったよ!一瞬でもボクの裸から目を反らしたもう一人のボクを紳士だなぁとか思ったボクの乙女心を返してよ。
とはいえ、状況は絶望的。唯一敵を倒す力を持ったボクは拘束されてるし、ボクともう一人のボクの人格を入れ替えたところで現状は変わらない。どうすれば…
「一つだけ、方法がある…」
その時、ぽつりと博士が呟いた。
「奴を倒すバレンタインパワーを他人に分け与える方法だ」
バレンタインパワーを、分け与える…?
「それには分け与える人間が必要だ。それにも条件があるが…。そもそもまず、この混乱でここに来る人間はいないだろう…」
はぁ、とうなだれる博士に、ボクともう一人のボクは瞬きをして目を見合わせる。
「できるかな?」
『体は同じだからわからないが』
うーん、と少し悩んでから、ボクは試しに聞いてみる。
「ちなみに、どうやってバレンタインパワーを分け与えるの?」
「そりゃまぁ、キッスだよ」
きっ
「ス!!?」
「バレンタインパワーだからね!」
さっきまで落ち込んでいた博士は、夢があるだろ?と明るく笑った。
『オレはなんとなくそんな気がしたぜ』
「いらないよ!そんな要素!」
が、そうそう敵も待ってはくれないらしい。…ここまで待ってくれただけありがたいけど。
「茶番はここまでだ!!」
ファイブゴッドドラゴンに扮するBig5の怒号が響く。ひぃ!どうしようもう一人のボク!だけど、混乱する頭で、解決策を模索するボクの前に、もう一人のボクが浮かんでいた。え、ま、まさかもう一人のボク…
『じゃあもらうぜ、相棒』
そして、もう一人のボクは、躊躇いもなくボクに口づけた。
瞬間、チョコレートを食べた時と同じような光が目の前を覆う。眩しい!目が…!
「もう一人のボク…!」
縋るようにその名前を呼ぶ。すると、ぱぁっと光が弾け、目の前には、先程と変わらぬファイブゴッドドラゴンと、
「…最悪だぜ」
ボクと同じ、女の子の姿になったもう一人のボクがいた。
「か、かわいいよもう一人のボク…」
笑いをこらえるのにぶるぶる震えてしまう。だけど、その仁王立ちの勇ましい姿に、フリフリロリータファッションがミスマッチで、っ…やばい…。
もう一人のボクは、笑いをこらえるボクをジト目で睨んで、まぁいいぜ、と敵に向かった。
「今度は貴様か、名もなきファラオ…」
もう一人のボクは、フフ、と不敵な笑みを零し、手本を見せてやるぜ、と呟いた。
「なんだと?」
ファイブゴッドドラゴンは、僅かに警戒するそぶりを見せたが、時既に遅し。
「なっ!なんだこれは!!」
五本それぞれの竜頭には、ボクと同じツタが絡み付き、ぎゅう、と締め上げていた。
「いつの間に…!」
「バレンタインパワーってやつだぜ」
余裕の笑みを浮かべるもう一人のボクは、そこから一歩も動いていないのに完全に場を制圧していた。
「大人しく電脳世界に返るなら命だけは助けてやるぜ」
「なにを…」
「おっと暴れない方がいいぜ、うっかり首を落としちまうかもしれないからな…」
もう一人のボクの言葉に呼応するように、ツタの拘束がぎりぎりと締まっていく。
「ぐあああ!」
「なに、五本も頭があるんだ。四本逝ったって、なんともないよなあ?」
えげつない追い詰め方をするもう一人のボクに、味方であるボクまで恐怖にすくみ上ってしまう。
「そうだな、退屈しのぎに首の骨、何本まで意識トバさねーか賭けるか」
「わかった!帰る!帰りますううう!!!」
目に涙をため、えっえっと泣き出すファイブゴッドドラゴンは、ちょっとかわいそうだしかわいいと思った。けど、中身はおじさんなんだよなぁと思いだして我に返る。
「わかったならとっとと失せな!!」
もう一人のボクの激昴に、ファイブゴッドドラゴンは、近くに出現させたワープゾーンのような場所にのしのし走っていって転がりこんだ。瞬間、ワープゾーンは消え、ファイブゴッドドラゴンの脅威も去った。すべてが終わったことに、ほっと安堵の息をつくと、ボクを支えていたツタがすぅっと消え、ボクは地面にたたき付けられた。
「あたた…」
強く打ち付けたお尻をさするボクの元に、もう一人のボクが走って来る。が、
「あい、ぶはっ!!」
「ぎゃー!鼻血!!」
ボクの目の前に立ったもう一人のボクが勢いよく鼻血を吹き出す。その血だまりがボクの座っている足元にできて……
「AIBOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!」
Muto Yugi age17
LP 0000
「もう一人のボクーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
もう一人のボクは、魔法少女のまま股間を押さえてうずくまったまま死んだ。
そこでようやくボクは、パンツまで溶かされた自分が立て膝で大開脚してるのに気づいた。しょ!しょうがないじゃん!ボク男だし…!!
「とりあえず私のを」
博士は自分の白衣をボクに貸してくれた。というか、彼はなるべくボクの裸を見ないようにしてくれてるっていうのに、もう一人のボクはガン見で鼻血吹いて倒れたからね!デリカシーとかないの!?
ボクは、博士にお礼を言って白衣を受け取り、前のボタンを閉める。うん、なんとか大丈夫そうだ。
「そういえば元に戻るためにも条件が必要なんだっけ?」
服はほとんど溶けてしまったけどまだ体は女の子のままだ。もう一人のボク共々早く戻って杏子の家に行かなきゃ。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれた」
博士はくるくると回って楽しそうに、歌うように、しかしもったいぶって言った。
「魔法を解くのは真実の愛!」
真実の、愛??
「好きな人の名前と好きだという熱い想い!それを口に出すことで魔法が解ける…!」
ああっ!なんてロマンチックな性能を私をつけてしまったんだ!と博士は自己陶酔している。ホントにいらない性能ばかりつける人だ!!
「……」
す、好きな人の名前と想い?
「あ、杏子が…好き」
ぼしょぼしょと小さい声で呟く。
「あ、あれ…?」
が、何も変化は起きない。
「だめだめ!うそなんか通じないよ!」
「う、うそじゃないよ!」
必死になって言い返すけど、博士は、のんのん、とボクの前で指を振る。
「求めてるのは真実の愛!魔法が解けないってことは、君にはもっともっと好きな誰かがいるはず!」
好きな……
「城之内くんとか、本田くんとか…大好きだし」
……。
「獏良くんも御伽くんも好きだよ…」
……。
「海馬くん、モクバくん…」
……………。
「……もう、一人の…ボク…」
ボクの大切な親友。
『相棒』
キミの声がボクを強くする。強くてかっこよくて、ちょっと不良っぽいし、意地悪なところもあるけど、優しくて、ボクは、ずっと前から、そんなキミが……
「…すき」
はっとして立ち上がるもう一人のボク。
「大好きだよ、もう一人のボク」
ああ、今目の前には実体を持ったキミがいるのに、魔法少女パワーが消えたらまた…
「相棒…』
抱きしめようとしたもう一人のボクの腕がすり抜ける。これが、ボクらの関係。どうしても縮まらない距離。透明な、永遠の壁。
それでも、誰よりも信じてるよ。
「キミは、ボクの大切な…」
元の姿に戻ったボクらは向かいあう。
が、視界端に映ったそれに自然と目線が下がり、ボクは美しい友情の言葉を折り畳み、言葉を入れ替えた。
「…なんでフル勃起?」
『あ!ち、ちがっ!これは!!!』
「きっ、キミ…!最低だーーーーーーッ!!!!!!!!」
ダッと走り出すボクに、違うんだ相棒!これは相棒のあられもない姿につい!とかなんとかとか叫んでいたけど、話の流れ的にそれはないでしょ!!!!
『すまないあいぼぉぉぉぉ!!!』
バレンタインパワーで突然二人になったかと思ったら、解除の魔法で一人に戻ったり。今日は不思議な光景をたくさん見た、と博士は思った。そして、ふと彼らに伝え忘れたことを思い出した。
「バレンタインパワーを分け与える条件、両想いの人間に限る、に設定したんだった」
言ってあげたら、魔法解除も困らせずにすんだかなぁ、と博士は一人思ったが、
「ま、いっか」
マッドサイエンティストは細かいことでは悩まないのだった。
もうすぐ時間は12時。走ればみんなとの時間に間に合いそうだ。
「もう一人のボク!それまでに、ソレ!なんとかしといてよ!」
走りながらもう一人のボクに言えば、うぐ…と珍しくもう一人のボクが唸る。だけど、少し考えるような沈黙のあと、もう一人のボクは、なぁ、とボクに耳打ちした。
『…相棒で抜いていいか?』
ボクはギャグマンガのように目の前の工事現場のパネルに突っ込み、物凄い音と共にひっくり返った。
「いいわけないだろ!!!」
今日はよく頭をぶつける日だ。
「だいたいボクじゃなくたって…」
座ったまま目線をさ迷わせるボクに、もう一人のボクが手を伸ばす。
『オレも、相棒が好きだから』
触れてるはずなのに触れられないキス。それでも、その行為は、キミとボクが同じ想いである証拠…。
「キミ、澄ましてるけど収まってないの知ってるからね」
『…お前の上下の口で処理してやってもいいんだぜ』
「あはは!下品!キミそれでも王様かよー!」
冗談を言い合ってボクらは立ち上がった。ボクはキミが大好きだし、キミも…同じ想いでいてくれてる。それが、なにより嬉しいから…
「とっ、特別に、許してあげるよ!」
驚いた顔をするもう一人のボクに、あ!妄想を!だからね!と釘を刺す。
「だから早く帰ってきてよ!キミが横にいないのは、さ、寂しいから…さ…」
もう一人のボクは、ボクの意志を汲み取ると、フッ、と笑って、じゃあ相棒の最高にエロい姿想像しながらやってくるぜ、と言って心の部屋に消えた。
「一言余計なんだよ、もー…」
せっかくのバレンタインなのに、品も何もあったもんじゃない。
「あ」
その時、ちょうど横にあったお店のショーウィンドウに、バレンタイン用のチョコレートが飾られていた。チョコレートのPOPには、Magical girlと書かれていて、今日の出来事を思い出してちょっと笑った。
「これ、ください」
本命なんて高望みしてない。
義理チョコだって友チョコだって、呼び名なんか関係ない。
好きな人からもらえるものは、きっと、なんだって嬉しい。
キミもそうでしょ?もう一人のボク。
おまけ
「相棒がオレにチョコレートを…!」
『うん!食べて食べて!そうそうこれの商品名がね』
ドンッ★
「……相棒?」
『…Magical girlだったんだよねー…』
☆また魔法少女化―――!
おわり
「めっちゃ喋る」
痛烈に敵の触手プレイを批難したもう一人のボクが、そうだろ相棒!と言わんばかりに、勝ち誇った顔で振り返る。知らないしキミの性癖も知りたくなかったよ!一瞬でもボクの裸から目を反らしたもう一人のボクを紳士だなぁとか思ったボクの乙女心を返してよ。
とはいえ、状況は絶望的。唯一敵を倒す力を持ったボクは拘束されてるし、ボクともう一人のボクの人格を入れ替えたところで現状は変わらない。どうすれば…
「一つだけ、方法がある…」
その時、ぽつりと博士が呟いた。
「奴を倒すバレンタインパワーを他人に分け与える方法だ」
バレンタインパワーを、分け与える…?
「それには分け与える人間が必要だ。それにも条件があるが…。そもそもまず、この混乱でここに来る人間はいないだろう…」
はぁ、とうなだれる博士に、ボクともう一人のボクは瞬きをして目を見合わせる。
「できるかな?」
『体は同じだからわからないが』
うーん、と少し悩んでから、ボクは試しに聞いてみる。
「ちなみに、どうやってバレンタインパワーを分け与えるの?」
「そりゃまぁ、キッスだよ」
きっ
「ス!!?」
「バレンタインパワーだからね!」
さっきまで落ち込んでいた博士は、夢があるだろ?と明るく笑った。
『オレはなんとなくそんな気がしたぜ』
「いらないよ!そんな要素!」
が、そうそう敵も待ってはくれないらしい。…ここまで待ってくれただけありがたいけど。
「茶番はここまでだ!!」
ファイブゴッドドラゴンに扮するBig5の怒号が響く。ひぃ!どうしようもう一人のボク!だけど、混乱する頭で、解決策を模索するボクの前に、もう一人のボクが浮かんでいた。え、ま、まさかもう一人のボク…
『じゃあもらうぜ、相棒』
そして、もう一人のボクは、躊躇いもなくボクに口づけた。
瞬間、チョコレートを食べた時と同じような光が目の前を覆う。眩しい!目が…!
「もう一人のボク…!」
縋るようにその名前を呼ぶ。すると、ぱぁっと光が弾け、目の前には、先程と変わらぬファイブゴッドドラゴンと、
「…最悪だぜ」
ボクと同じ、女の子の姿になったもう一人のボクがいた。
「か、かわいいよもう一人のボク…」
笑いをこらえるのにぶるぶる震えてしまう。だけど、その仁王立ちの勇ましい姿に、フリフリロリータファッションがミスマッチで、っ…やばい…。
もう一人のボクは、笑いをこらえるボクをジト目で睨んで、まぁいいぜ、と敵に向かった。
「今度は貴様か、名もなきファラオ…」
もう一人のボクは、フフ、と不敵な笑みを零し、手本を見せてやるぜ、と呟いた。
「なんだと?」
ファイブゴッドドラゴンは、僅かに警戒するそぶりを見せたが、時既に遅し。
「なっ!なんだこれは!!」
五本それぞれの竜頭には、ボクと同じツタが絡み付き、ぎゅう、と締め上げていた。
「いつの間に…!」
「バレンタインパワーってやつだぜ」
余裕の笑みを浮かべるもう一人のボクは、そこから一歩も動いていないのに完全に場を制圧していた。
「大人しく電脳世界に返るなら命だけは助けてやるぜ」
「なにを…」
「おっと暴れない方がいいぜ、うっかり首を落としちまうかもしれないからな…」
もう一人のボクの言葉に呼応するように、ツタの拘束がぎりぎりと締まっていく。
「ぐあああ!」
「なに、五本も頭があるんだ。四本逝ったって、なんともないよなあ?」
えげつない追い詰め方をするもう一人のボクに、味方であるボクまで恐怖にすくみ上ってしまう。
「そうだな、退屈しのぎに首の骨、何本まで意識トバさねーか賭けるか」
「わかった!帰る!帰りますううう!!!」
目に涙をため、えっえっと泣き出すファイブゴッドドラゴンは、ちょっとかわいそうだしかわいいと思った。けど、中身はおじさんなんだよなぁと思いだして我に返る。
「わかったならとっとと失せな!!」
もう一人のボクの激昴に、ファイブゴッドドラゴンは、近くに出現させたワープゾーンのような場所にのしのし走っていって転がりこんだ。瞬間、ワープゾーンは消え、ファイブゴッドドラゴンの脅威も去った。すべてが終わったことに、ほっと安堵の息をつくと、ボクを支えていたツタがすぅっと消え、ボクは地面にたたき付けられた。
「あたた…」
強く打ち付けたお尻をさするボクの元に、もう一人のボクが走って来る。が、
「あい、ぶはっ!!」
「ぎゃー!鼻血!!」
ボクの目の前に立ったもう一人のボクが勢いよく鼻血を吹き出す。その血だまりがボクの座っている足元にできて……
「AIBOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!」
Muto Yugi age17
LP 0000
「もう一人のボクーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
もう一人のボクは、魔法少女のまま股間を押さえてうずくまったまま死んだ。
そこでようやくボクは、パンツまで溶かされた自分が立て膝で大開脚してるのに気づいた。しょ!しょうがないじゃん!ボク男だし…!!
「とりあえず私のを」
博士は自分の白衣をボクに貸してくれた。というか、彼はなるべくボクの裸を見ないようにしてくれてるっていうのに、もう一人のボクはガン見で鼻血吹いて倒れたからね!デリカシーとかないの!?
ボクは、博士にお礼を言って白衣を受け取り、前のボタンを閉める。うん、なんとか大丈夫そうだ。
「そういえば元に戻るためにも条件が必要なんだっけ?」
服はほとんど溶けてしまったけどまだ体は女の子のままだ。もう一人のボク共々早く戻って杏子の家に行かなきゃ。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれた」
博士はくるくると回って楽しそうに、歌うように、しかしもったいぶって言った。
「魔法を解くのは真実の愛!」
真実の、愛??
「好きな人の名前と好きだという熱い想い!それを口に出すことで魔法が解ける…!」
ああっ!なんてロマンチックな性能を私をつけてしまったんだ!と博士は自己陶酔している。ホントにいらない性能ばかりつける人だ!!
「……」
す、好きな人の名前と想い?
「あ、杏子が…好き」
ぼしょぼしょと小さい声で呟く。
「あ、あれ…?」
が、何も変化は起きない。
「だめだめ!うそなんか通じないよ!」
「う、うそじゃないよ!」
必死になって言い返すけど、博士は、のんのん、とボクの前で指を振る。
「求めてるのは真実の愛!魔法が解けないってことは、君にはもっともっと好きな誰かがいるはず!」
好きな……
「城之内くんとか、本田くんとか…大好きだし」
……。
「獏良くんも御伽くんも好きだよ…」
……。
「海馬くん、モクバくん…」
……………。
「……もう、一人の…ボク…」
ボクの大切な親友。
『相棒』
キミの声がボクを強くする。強くてかっこよくて、ちょっと不良っぽいし、意地悪なところもあるけど、優しくて、ボクは、ずっと前から、そんなキミが……
「…すき」
はっとして立ち上がるもう一人のボク。
「大好きだよ、もう一人のボク」
ああ、今目の前には実体を持ったキミがいるのに、魔法少女パワーが消えたらまた…
「相棒…』
抱きしめようとしたもう一人のボクの腕がすり抜ける。これが、ボクらの関係。どうしても縮まらない距離。透明な、永遠の壁。
それでも、誰よりも信じてるよ。
「キミは、ボクの大切な…」
元の姿に戻ったボクらは向かいあう。
が、視界端に映ったそれに自然と目線が下がり、ボクは美しい友情の言葉を折り畳み、言葉を入れ替えた。
「…なんでフル勃起?」
『あ!ち、ちがっ!これは!!!』
「きっ、キミ…!最低だーーーーーーッ!!!!!!!!」
ダッと走り出すボクに、違うんだ相棒!これは相棒のあられもない姿につい!とかなんとかとか叫んでいたけど、話の流れ的にそれはないでしょ!!!!
『すまないあいぼぉぉぉぉ!!!』
バレンタインパワーで突然二人になったかと思ったら、解除の魔法で一人に戻ったり。今日は不思議な光景をたくさん見た、と博士は思った。そして、ふと彼らに伝え忘れたことを思い出した。
「バレンタインパワーを分け与える条件、両想いの人間に限る、に設定したんだった」
言ってあげたら、魔法解除も困らせずにすんだかなぁ、と博士は一人思ったが、
「ま、いっか」
マッドサイエンティストは細かいことでは悩まないのだった。
もうすぐ時間は12時。走ればみんなとの時間に間に合いそうだ。
「もう一人のボク!それまでに、ソレ!なんとかしといてよ!」
走りながらもう一人のボクに言えば、うぐ…と珍しくもう一人のボクが唸る。だけど、少し考えるような沈黙のあと、もう一人のボクは、なぁ、とボクに耳打ちした。
『…相棒で抜いていいか?』
ボクはギャグマンガのように目の前の工事現場のパネルに突っ込み、物凄い音と共にひっくり返った。
「いいわけないだろ!!!」
今日はよく頭をぶつける日だ。
「だいたいボクじゃなくたって…」
座ったまま目線をさ迷わせるボクに、もう一人のボクが手を伸ばす。
『オレも、相棒が好きだから』
触れてるはずなのに触れられないキス。それでも、その行為は、キミとボクが同じ想いである証拠…。
「キミ、澄ましてるけど収まってないの知ってるからね」
『…お前の上下の口で処理してやってもいいんだぜ』
「あはは!下品!キミそれでも王様かよー!」
冗談を言い合ってボクらは立ち上がった。ボクはキミが大好きだし、キミも…同じ想いでいてくれてる。それが、なにより嬉しいから…
「とっ、特別に、許してあげるよ!」
驚いた顔をするもう一人のボクに、あ!妄想を!だからね!と釘を刺す。
「だから早く帰ってきてよ!キミが横にいないのは、さ、寂しいから…さ…」
もう一人のボクは、ボクの意志を汲み取ると、フッ、と笑って、じゃあ相棒の最高にエロい姿想像しながらやってくるぜ、と言って心の部屋に消えた。
「一言余計なんだよ、もー…」
せっかくのバレンタインなのに、品も何もあったもんじゃない。
「あ」
その時、ちょうど横にあったお店のショーウィンドウに、バレンタイン用のチョコレートが飾られていた。チョコレートのPOPには、Magical girlと書かれていて、今日の出来事を思い出してちょっと笑った。
「これ、ください」
本命なんて高望みしてない。
義理チョコだって友チョコだって、呼び名なんか関係ない。
好きな人からもらえるものは、きっと、なんだって嬉しい。
キミもそうでしょ?もう一人のボク。
おまけ
「相棒がオレにチョコレートを…!」
『うん!食べて食べて!そうそうこれの商品名がね』
ドンッ★
「……相棒?」
『…Magical girlだったんだよねー…』
☆また魔法少女化―――!
おわり
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プロフィール
性 別 | 女性 |
地 域 | 埼玉県 |
系 統 | 普通系 |