「びっくりした!」
そう言って、尚樹は指差した。
デパートの二階から、見下ろすようにマネキンがこちらを向いている。
「うわっ」
思わず鐘子も声が出た。まさに二人を凝視しているかのよう、そんな位置にそれはあった。
遠いのと暗いのとではっきりはわからなかったが、女性のものと思われた。
人形とわかっていても、気味のいいものではない。
しばらくして、鐘子と尚樹はふと見上げる。
マネキンが、動いた。
今までわざと止まっていたのかと疑いたくなるくらい、ごく普通に。
足早に階段を降りていくのが見え、視界から消えた。
「……どっちなんだよ」
尚樹が苦笑した。人なのか人形なのか。
「……どっちなんだろ?」
鐘子は言いながら尚樹の腕を引っ張って立ち上がる。
マネキンは、あるいは人は、一階でまた二人を見ていた。
加美山さんのカレンダー。赤い丸のついた日がいくつかある。
つけた記憶はない。気が付くと、増えている。
「気にしすぎだとは思うんだけど」
丸がついた日は、なにかと悪いことが重なる。些細なことは改札に挟まれたり、大事になれば階段から落っこちて骨折。ともかく、何かとツイてない日だと覚悟する必要があった。
「今日は財布がどっか行ってさ。現金はいいんだが、カードがね……」
「今日も丸が?」
「いや」
今月、丸がついていたのは“7月”という部分だったとのこと。
畠山さん。
起きた瞬間、職場にいた。これはワープだ、と確信する。
「パジャマ着たままだったんだ、そんなことありえないだろ?」
同僚たちには寝惚けてたからだ、と散々バカにされたらしい。
もっとも、出勤してくる彼の姿を見た人はいない。最初に出勤した職員が、パジャマ姿で机に突っ伏す畠山さんを見つけたんだとのこと。
結局、真偽のほどはわからない。
ただ、今日も畠山さんはパジャマ姿で目の前にいる。
着替える間もなく飛ばされてきたんだ、と。