「お前、私のものになれ。」
傲慢でわがままな王子様の命令。それに対する娘の返答は・・・。
「は?嫌だね。アタシは誰かのモノになんてなりたかないねぇ。」
好戦的な笑みを浮かべる、ジプシーの娘。美しい彼女がほしい王子様は命令ひとつでなんとかしようとする。
「この者を捕らえよ。ただし、傷はつけるな。」
「はっ。」
王子の命令で娘を捕らえようとする兵士たち。しかし娘はひらりと舞うように逃げ回り、なかなか捕まらない。
「わがままなガキはこれだから困るんだよ!」
娘がトンっと床を蹴り、宙に舞う。そのままふわりと王子の座る椅子の目の前に着地した。
「いい加減、追いかけっこにも飽きたし。アタシと賭けをしないか?王子様。」
王子の顔面すれすれまで顔を寄せて、その目を覗き込むように笑って娘が言う。
「賭け?どんな賭けだ。」
娘の挑発に王子はほんの少したじろぎながら、キッと娘を睨む。
「簡単さ。アタシとあんたで剣術勝負をして、あんたが勝ったらアタシはあんたのものになる。アタシが勝ったら、あんたはアタシのことを諦める。それだけさ。」
娘の瞳はギラリと光っていた。口元に浮かぶ笑みは余裕を醸し出していた。
「・・・よし。その賭け、乗ってやる。」
王子は押し殺したような声で言った。その言葉にそばに控えていた従者が慌てる。
「殿下!勝手にそのようなことをして、お父上に怒られますぞ!」
「それがどうした!私は今、猛烈に腹が立っている。この女を負かしてやらなければ気が済まぬ!」
従者の言葉は王子を止めることは出来なかった。かくして、王子様とジプシー娘は互いに剣をとり、勝負することになった。
「ここに居るすべての者がこの勝負の証人だ!」
王子は大きな声で宣言する。兵士達の歓声が響く。
「じゃ、はじめようか。」
にやりと娘は笑った。
剣を構えて向かい合う二人。静まり返る場の空気。永遠にも思える間、二人は動かなかった。
“この娘、相当強い。下手に動いたら負ける。”
わがままで傲慢だが一国の王子だけあって、剣の修行はしていた。だから、娘の構えに隙が無いことはすぐに分かった。王子は自分でも知らないうちに額に汗していた。
勝負は、一瞬だった。
ごくり、と誰かが唾を飲む音。
それが合図であったかのように二人は同時に動いた。
キィィン
ぶつかった刃は鋭い金属音を辺りに響かせる。
・・・王子の首もとに刃が突きつけられていた。
王子が振り下ろそうとした剣を、娘は左手に待った剣で受け止め、右手に持ったナイフで王子の首を狙っていた。
「勝負、あったな。」
娘が小さく呟く。
「・・・なっ。貴様!ずるいぞ!」
「ずるくても勝ちは勝ちさ。ナイフを使っちゃいけないって決まりは無かっただろ?」
アハハと笑って娘は剣をおさめる。王子は悔しさ倍増でわなわなと震えていた。
「じゃあ、アタシは帰らせてもらうよ。」
そう言って立ち去ろうとする娘。
「・・・ふ、ふざけるなー!!」
王子は叫び、娘の背後から切りかかる。
キィィィィィィン
「・・・まだ恥をかきたいのかい?」
娘の声は恐ろしく低かった。右手のナイフ一本で剣を受け止めている。力任せの一撃を娘は完璧に受け止め、鋭い目で王子を睨んでいた。
力量の差は明らかだった。
「・・・う・・・ぅわぁ〜ん。」
突然、王子は泣き出した。あまりに子供っぽく泣くものだから、娘はあっけに取られてしまった。
「情けないねぇ。男が泣くんじゃないよ。」
そう言いながら、娘は頭一つ分背の高い王子の頭をワシワシと撫でた。
「だって・・・私はお前が欲しかったんだもの。・・・ひっく・・・お前があんまり綺麗だから・・・。」
もはや駄々っ子とかした王子は涙目で言う。
「あのな、王子様。人は誰も誰かのものになんか出来ないんだよ。人はそれぞれ自分自身のものだからね。誰かの所有物にはなれない。」
娘はそれまで見せたことのない優しい顔で王子に語りかける。
「だけどね、人は思うことが出来る。大切な誰かを思って、そばにいることが出来るんだよ。」
「大切な、誰か?」
「そうだよ。あんたのそばにもいるはずさ。ほら。」
娘はそう言って、王子の後ろを指差す。振り向けばそこには。
「父上、母上・・・。」
優しい表情の両親。笑顔で王子に手を差し伸べている。王子は二人のもとへ駆けていった。
「よく頑張りましたね、殿下。」
従者も嬉しそうににこにことしている。
「ありがとう、レインシア姫。あなたのおかげでこの子に大切なことを気付かせることが出来ました。」
王妃様が言う。
「え?姫って?・・・まさか。」
王子は驚いて、娘を見た。ジプシーの格好をした娘はおかしくてたまらないという風にケタケタと笑っていた。
「王子様。私はレインシア・サンアイリス。この国の隣にあるサンアイリス国の姫だよ。騙して悪かったねぇ。でも、自分の伴侶になるのがどんな男か、どーしても見ておきたくてね。」
にっこり笑うレインシア。王子は、ほうけたように彼女を見ていた。が、徐々に笑いがこみ上げてきたようで最後には二人で一緒になって笑っていた。
・・・それから、少しして。王子と姫は結婚した。互いに互いを尊重しあうというを誓いをたてて。
**********************************************************
企画:深海恋愛
この企画に参加することを快く許可してくださった辻川様に多大なる感謝をいたします。
こんな長くなる予定ではなかったんですが、長いですね。
微妙にデモクラシーからずれてる気もしますが、そこはスルーして・・・あ、だめ?www
結構悩んで、何パターンか話を考えましたがどれも、もたついた感じになってしまったので、一番あっさり(これでも)まとめられたのを選ばせていただきました。ほかに考え付いたものはネタとして、いつか別のタイトルで書くつもりです(笑)