「さて、ゲームを始めようか。」
ニヤリと笑い、男は言った。目深にかぶった山高帽を、白い手袋をはめた手で軽くつまんでいる。男の服装は西洋の貴族のような燕尾服で、片方の手にはステッキを握っていた。
「ルールはカンタン。この館の中に隠されたヒントを探し出し、それをもとに宝を見つけ出すというものだ。一番に見つけた者はその宝を得ることができるが、それ以外の者には罰があるので心して臨んでくれたまえ。」
先ほど、男がした説明を思い出しながら、俺は館の中をさまよい歩く。目についた部屋のドアを開け、中を探ってみる。そこは書斎のようだった。左右の壁に書棚が並び、窓を背にして大きな机が置かれている。
とりあえず、机を調べてみる。一番上の引き出し。鍵がかかっている。二番目の引き出し。何も入っていない。三番目の引き出し。取っ手に手をかけた時点で中から音がする。…開けないでおこう。
次に書棚の方へ目をやる。左右の書棚には高そうな革張りの本が並んでいる。扉から見て向かって右の書棚はガラス戸がついているタイプで、試しに開けようとしたら、枠が歪んでいるのか、開かなかった。向かって左の書棚は所々隙間があり、よく見ればシリーズの中で一冊だけなかったりしていた。
「ん?コレは…。」
視点をスライドさせていくと、一つだけタイトルのない本があった。とりあえず手に取ってみる。どうやら日記なようだ。
“10月17日、晴れ、月が赤く染まる夢を見た。胸騒ぎがする。何か悪いことが起きなければ良いが…。”
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“10月18日、曇り、今日はメイドが一人辞めていった。優秀だったので、残念だ。彼女にも事情があるのだろうから、仕方のないことだが。”
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“10月19日、雨、ざわざわと木々の騒ぐ音がする。嵐が来ているようだ。今日は馬丁が一人、辞めたいと言ってきた。彼はだいぶ顔色が悪いようだったし、仕方ないと思う。”
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“10月20日、晴れ、今日も月が赤くなる夢を見た。そういえば最近、使用人の数が減っている気がする。辞めていったのは二人だけなはずだが、もう二、三人は減っていると思う。”
次のページは破りとられていた。それ以降は何も書かれていない。
「んー。もうちょっと何か有りそうだけどなー。まあ、とりあえず持ってくか。」
呟いて、その部屋から出る。廊下を歩き、次の部屋のドアを開ける。そこは寝室だった。シングルサイズのベッドが一つとサイドテーブルがあり、壁には絵が飾られている。それは美しい女性が満月の下で踊っている絵だった。
「あの日の月は赤かった」というタイトルが額の裏に書かれていた。しかし、絵の月は青白い色彩で描かれているのだが…。
「赤くしろってことかな?」
ほかに見るべき点はないようなので、絵から離れ、ベッドの方に近づく。まずはサイドテーブルを調べてみよう。
まず、上には電灯が置いてある。スイッチを入れてみる。点いた。その明かりを頼りにサイドテーブルの引き出しを探る。寝室には窓がなく、外の様子はわからない。引き出しからはブリキのロボット型をした人形とマッチ箱が出てきた。マッチ箱の中には一本だけマッチが入っていた。
「…んー。どうしよ。ここらでやめとくか。」
呟いた彼は、ボタンを操作する。目の前のディスプレイには
「セーブしますか?」
の文字が浮かんでいた。YESを選択すると、機械は低くうなり、今までの記録を残した。
「ふぁ。ねよ。」
あくびをした彼が寝床にもぐる。赤い月の夢を見たかどうかは誰も知らない。
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はい。久しぶりにSSを書いてみました。
今回はタイトルにもある通り、三題噺ということで、その場にいた友人三人からお題をいただき、それらを全て組み込んだ話を書いてみました。なにげに初の試みでしたが、書いていて楽しかったです(・∀・)
サイトの方にもアップしなきゃ。
とりあえず、全然更新してないので…。
やりたいことは割とあるんですが、うまいことペース配分ができません。どうしたら良いんでしょうね。