ああ、なんでこんなことになったんだろう
私は地味に学園生活を送りたかっただけ、なのに…
事の始まりは約一ヶ月前のこと。
その日のLHRは秋に行われる銀魂高校の文化祭の出し物についての話し合いが行われていて、私ははぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるクラスメートをぼんやりと見つめていた。
外は秋だと思わせない陽射しがカンカンと照っていて眩しいくらい。全ての窓は全開にも関わらずぬるい風しか入ってこなくて私はぱたぱたと首元に掌で風を送り込んでいる最中だった。
『(みんな元気だなぁ…)』
こんな暑さにも負けずに騒げるみんなが羨ましいな、と思いながら何気なく教卓に目をやる。そこには志村さん(お姉さんの方)が立っていてその後ろに備えつけてある黒板には大きく“演劇 白雪姫”と書いてあった。
どうやら私がぼんやりとしている間に演劇をやることが決まったらしい。
そこまでは良かった。
問題はその題字の隣にある主役 白雪姫、の下に書いてある文字だった。
見覚えのある漢字の羅列を見てあたしの顔からみるみる血の気が引いていく。
『…っええぇぇぇ!!?』
がたん!と椅子から立ち上がりすっとんきょうな声を上げるとクラスメートの視線が私に向けられるのは仕方のないことで、でもそんなことを気にしている暇もなかった。
「あら、どうしたの?」
ふわりと笑みを浮かべて志村さんが微笑む。いやちょっと待って下さい!私白雪姫に立候補した覚えがないんですけど、どうして白雪姫の字の下に私の名前が書いてあるんですか!?(無意識の内に挙げてたとか)(いやいや、それはない)
「え?だって貴女が立候補してるって…」
志村さんの言葉を遮るように、突然目の前にぬっと人影が現れた。いきなりの出来事に思わず後退りする
さらさらの茶髪、真ん丸な瞳、その人物の名前を呼ぶ前に独特の口調が聞こえてきた。
「あんたがやりたそうな顔してたから王子役の俺が推薦してやったんでィ、ありがたく思いなァ」
目の前にいる人物、沖田総悟君はさらりとそう言ってのけた。え、ちょ、待ってさっぱり理解出来ないんですけど
もう一度黒板に視線を移す。白雪姫の隣には王子と書いてあってその下には沖田君の名前が書かれていた。
「…それともなんでィ、王子役が俺じゃ不満だってのかよ?」
その言葉に沖田君を見るとあからさまに不機嫌な顔になっていた。私は首が千切れるくらいにぶんぶんと横に振る。すると彼の表情はパッと笑顔に戻った。
「ま、そんな訳で本番までよろしく頼むぜィ」
ひらり、楽しそうに手を振る沖田君に対して未だにこの状況が飲み込めない私。反論するにも声が出ない。むしろここで反論したって意味がないのかもしれない
力なく私は椅子に座り込んだ。
沖田君は下級生にも同級生にも人気で下級生に至ってはファンクラブがあったりする程、で。
地味な生活を送っていた私にとって彼は一生関わることのないクラスメートだと思ってた、もちろん彼も地味で普通な私のことなんて興味ないと思ってた、 のに。
数日後、志村さんから手渡された手作りの台本をパラパラと捲っていた私の目に衝撃的なものが映った。
それは白雪姫と言う物語上避けられない展開な訳でありまして、
“王子、目を閉じて眠る白雪姫に目覚めの口付けをする”
…なんですとォォ!?!?
声にならない声で台本を見ていると前の空席(高杉君の席)に人の気配が。顔を上げるとそこにいたのは我が物顔で座るのは沖田君だった。
笑顔で「よォ」だなんて言うから硬直 そう言えば私は沖田君とまともに喋ったことがなくて
「見ましたかィ、ラストのページ」
ピンポイントでその話題を振られ、んぐ と息が詰まった。そんな私の表情を読み取ったのか私の机に頬杖をつきながら沖田君は言葉を続ける。
「安心しなせェ、チューはするフリでいいらしいぜィ」
あ、フリでいいんだ、とほっと胸を撫でおろす。
さすがに沖田君と演技だと言えキスをするのは後が怖い。過激なファンの子に殺されかねないし(うあ、考えたくない)
「まァ、俺があんたの初チューを奪ってもいいけどなァ」
『は、っ!?』
「あり、もしかしてチューの経験もないのかィ?今時珍しいねェ」
沖田君はニマリ、と不気味な笑みを浮かべなから席を立つ。立ち去る際に私の頭をくしゃりと撫でてこう言った。
可愛い奴、と。
そんなこんなであっという間に文化祭当日を迎えてしまった。
あーもう嫌だ、こんなに憂鬱な朝は初めてで学校に向かう足も鉛のように重たくてこのままどこかに逃走したかった(そんなの出来ないけど)
もそもそと文化祭運営委員会手作りの校門に架かっているアーチを潜る。教室への道を歩いていると嫌でも聞こえてくる沖田王子の話題。私は足早にその中を潜り抜けていった。
「ねぇ聞いた!?Z組の沖田君白雪姫の王子役だって!」
「白雪姫役誰?あーん、超羨ましいっ!」
…胃が痛い。
そしていよいよその時がやってきた。沖田君が準主役と言うこともあって会場は女の子で溢れかえっていてその様子を舞台袖で見ていて本当に泣きそうになる。誰か代わってくれないかなぁ100円あげるから、そんなことを思いながら刻々と近付いてくる例のシーン。
私は舞台の真ん中、手作りの棺の中で瞳を閉じながらこの瞬間が早く過ぎ去ってくれることを願った。
シクシクと小人達の泣きじゃくる声に混じる一つの台詞に耳をそばだてる。
「ああ美しい白雪姫よ、どうか私の永遠を溶かす愛の口付けで目覚めておくれ…」
上から聞き慣れた声が降ってくると同時に顔にかかる沖田君の髪の毛がくすぐったい。
と、その時。
唇に今までない柔らかな感触を感じてどきりとした。練習でも味わったことのない柔らかなそれ。
驚いて思わず目を開けるとそこにあったのは目を閉じている綺麗な沖田君の顔。…って、
『ん…む!?』
上手く息が出来ないのは私の唇が沖田君の唇で塞がっているからで、あまりの息苦しさに顔を背けようとしても沖田君はそれを許してはくれなかった。この状況を理解した私の脳内は次第に混乱と動揺で真っ白になっていく。
ぎゃああぁぁ!!!と観客席から聞こえる女の子達の悲鳴が遠く置き去りにされているようで
ちゅ、と音をたてて沖田君の唇が離れる。訳も分からず息もたえだえに彼を見つめると沖田君は意地悪く笑ってこう言った。
「…あんたの初チュー、確かに貰いやしたぜィ」
そして私の手を引き無理矢理立たせると近くにあったスタンドマイクの場所まで私を引っ張っていき、マイクのスイッチが入っていることを確認するとそこに向かってとんでもないことを言い出した。
「と言う訳で、白雪姫は俺のモンでィ。お前ら手ェ出したら男女問わずぶっ殺す」
「総悟、ナイスだよく言った!」「やるじゃない沖田君!」「最高!」「感動した!」などと真っ先に感嘆の声を上げたのが3Zの面々だと言うことに気付き、3Zみんながグルになって沖田君の告白を後押ししたんだとこの時初めて知った。(みんな知ってたの!?)(え、新手のいじめ?)
【眠れなくて一発書きした久々沖田夢。かなり長くてごめんなさいorz あまりに長くてはしょった部分多すぎて中途半端になってしもた…
ちなみに沖田は最初からヒロインのことがすきだったり。】