「お…美味しい」
「今日の勝負も、俺の勝ちだな」
「く…くやしーっ!」
とある家での料理対決の、ほんの一コマ。
奴と料理勝負をするようになって、もう数年経つ。
ことの発端は、
奴の家に遊びに行った時に食べた肉じゃがが
とても美味しかったから、だったと思う。
以後、あたしは
奴に料理勝負を挑むようになった。
勝敗の決定は、
どっちの料理が美味しいか
と、至ってシンプルな判定方法で
それでもあたしは、奴に勝ったことがなかった。
なぜ!
料理本を見て一生懸命研究してるのに!
月に1回、お料理教室にも通ってるのに!
それに対し奴は、テレビにも出るくらい
有名なバンドのドラムスで
練習、ライブ、ツアー、テレビラジオ出演とか色々あって
料理を練習する暇なんか、全くないはずなのに!
なぜ!なんで!どうして!
何度挑んでも、どれだけ自信があっても
いつも、奴の料理の方が美味しかった。
負ける度にorz←これ、屈辱のポーズね。
だって!
悔しいじゃない!
料理で女が男に負けるなんて!(アレ?偏見?)
こうなったら意地でも勝ってやる!
って、鼻息荒くしながら料理の研究をして
もう何年経つんだろう…
あたしが美味しいって言わなければいい話なんだけど
ぶっちゃけ、こいつの料理は美味しいし
どっちも美味しいって言わなかったらドローだけど
それじゃ勝ったことにならない。
はあー。
「…くやしい」
「ん?」
目の前に座ってる憎きライバルは、あたしが作った料理(れんこんと鶏肉のオイスターソース炒め)を
ご飯と一緒に、ぱくぱくと食べていた。
「いや、でも最初の頃に比べたら上手くなったよ。美味いし」
「…慰めのコメントはいらない」
あたしは!
あんたに!
美味しい!
って
言わせたいんだ!!
(言わせたい、ってのがポイントね)
そのために努力、してるんだけど
どうして実らないんだろう。
くっそー。
同じ食卓に並べられた、奴の料理を箸で一つまみ。
絶妙に味付けされた醤油味の煮物は、あたしの舌に大ダメージを与えた。
「なんでこんなに美味しいのさ!絶対嘘!詐欺!有り得ない!!」
箸を乱暴に置き、悶絶しそうなくらい激しく床に転がる。
煮物に彩りを添えているはずのきぬさやにすら
意味不明な怒りを覚えた。
「こら、行儀悪いことすんな」
怒られて、しぶしぶ起き上がる。
なんだか子どもみたいで、格好悪さに、さらに拍車をかけてるみたいだ。
第二次反抗期?
「今は晩ご飯の時間。暴れる時間じゃありません」
「…」
言ってることが間違ってないのが、さらにムカつく。
ムカついたから、煮物の肉を全部あたしの取り皿に入れてやった。
「あ!俺の肉は!?」
「これはもうあたしの肉ですー。文句は言わせませーん」
「…子どもか、って」
苦笑いされる。
どうせ子どもだよ、バカ
と
悪態をついた。
どんどん少なくなっていく、あたしの料理
本当に美味しいのか、疑問になったから食べてみたけど
やっぱり、こいつが作った煮物の方が美味しい。
「にしても、今までで一番美味いよ。ご飯が進むね。つーことでおかわり」
「自分でよそえばいいじゃん。そして髭に米粒ついてる」
「マジか」
カッコつけて髭なんか伸ばしてるからだ、
と言うと
自分のアイデンティティを確立させるためだ、
とか
訳の分からないことを言い出した。
なんて返せばいいのか分からなかったので
あっそ、と、適当に返しといた。
「早くおかわりよそってくれよ。まだご飯あったはずだし」
「自分で盛れ」
「お前の方が近いじゃん」
「…」
確かに。
茶碗を引ったくると、立ち上がって台所に向かった。
ご飯をよそったついでに、勝手に冷蔵庫を開けて物色する。
缶ビールがあったので、頑張って片手で二つ持った。
「え、まさか飲むの?」
「今日はやけ酒する!」
「無理しない方がいいんじゃね?ただでさえあんまり強くないんだし」
「おだまり!」
茶碗と一緒にビールも渡す。
フタを空け、一気に喉に流し込む。
苦い炭酸が、やけに心地好かった。
「おいおい、知らねえぞ?どうなっても」
「大丈夫。帰れないくらいに酔っ払ったら帰らないから」
「…それは俺ん家に泊まるってことか」
「そーいうこと」
ビールを飲み、ご飯をかきこむ。
あまりアルコールを飲まない分、なんだか今日はたくさん飲めそうな気がした。
その自信が
よろしくなかったのかもしれない。
目の前にいる女は、べろんべろんに酔っ払っていた。
俺、止めたんだけどな。
顔を真っ赤にして、呂律の回ってない状態で
俺の名前を連呼している。
完全に酔っ払いじゃねえか!
こりゃ俺ん家に泊まってく展開だな
せめてベッド周りは片付けとくか。
(怪しいものはないけど)
そんなことを、ぼんやりと考えていた時だった。
「ねえ〜」
軟体動物みたく、ふにゃふにゃしながら俺を見つめる。
ふとした拍子にテーブルのものをひっくり返されると
後片付けの掃除がめんどくさいので
食器類はあらかじめ、台所のシンクの中に避難済みだ。
「なんだよ」
「なんであたしはあんたに勝てないんだろう〜?」
「いや、だから、お前の料理は美味いって」
「うへへ、ありがと〜」
「…」
困った。
何が困ったって、この、いつもと違う雰囲気だ。
こいつ、酔っ払うと、結構可愛くて素直になるんだよな。
さらに、俺も酔っ払ってるときてる。
何かがあってもおかしくないこの状況で、
なにもないと安心しきってるこいつの無防備さが、
うっかり舌を滑らせた。
「…俺の、」
いつも素直でいればいいのに。
まあ、俺もだけど。
「俺の料理が美味いの、何でだと思う?」
「へ?」
「まず、料理は目分量じゃ美味いもんも美味くならねえんだ。それから…」
料理は、小さじ一杯の愛情。
何言ってんの、愛情なんて、あたしはいつも
おたま6杯くらい入れてるよ!
…へ?
【小さじとおたまのかけあいは、実際に太鼓さんと声弦さんがやってたのをパクった
笑
太鼓さんの料理一回食べてみたい!
イメージとしては和食が上手そう!
こうなりゃ書きます、声弦夢←】