仕事が終わったあと、映画館に行った。ヤン・シュヴァンクマイエルの「オテサーネク」を見に。

ヤン・シュヴァンクマイエルはチェコ出身の映像監督。
80年代ぐらいの映画かと思ったら、2000年だった。

むかしむかし、子どもに恵まれない夫婦がいた。ある日偶然掘り起こした切り株が、赤ん坊の姿にそっくりだったので、大切に家に持って帰ると、切り株はまるで、本物の赤ん坊のように動き始めた。
木はミルクを飲み、パンを食べると、瞬く間に大きく成長し、母親を食べ、父を食べ、通りがかった豚・羊・羊飼い…をどんどん平らげ、どんどん巨大化していくが、ついに…。

という、チェコの民話「オテサーネク」を、現代社会で再現した映画。

DVD買おうか迷うほど、気になっていた監督・映画だった が、この超ローカルな映画館で、まさかのリサイタルと聞き、見に行ってきた。千載一遇とは正にこのこと。

さて感想は…DVD買わなくて本当に良かった。。
本当に恐ろしい映画だった。その技術も演技もすべて、「超一流」なんて言葉では全くもって足りないくらい、凄まじい映像作品であることは間違いない。だがもう二度と見たくない。

工芸って、美しいものじゃなかったっけ?小道具の造りがかなり凝ってるけど、なんだろう、「手作り」って、あったかいんじゃなかったっけ…。
今後、「木のぬくもり」なんてキャッチコピーを耳にするたび、この映画のことを思い出すだろうよ…。

オープニングでは、可愛らしい、元気な赤ちゃんの音声&スライドショーが、クラシック音楽と共に流れる。

いかにも、「赤ちゃんって可愛いよね!子どもって癒されるよね!だから家族って素晴らしいよね!」なんてメッセージが聞こてきそうな映像。
だけど、そこから転落する落差が本当にひどい。

子どもは天使?
子どもを持つことは当たり前で、「普通の」幸せなのか……?
もし赤ん坊が、親の望んでいたような、「普通の」赤ん坊ではなかったら?あるいは、両親の本当の子どもじゃなかったとしたら…。

これは、ありふれた価値観に真っ正面から戦い、マリノリティに希望をもたらす映画。
…ではなかった。真っ正面からグッチャグチャに破壊しにかかってくる。そして何一つ救わず回収せず、焼け野原に瓦礫の山を残して去る。そんな感じ…。

オティークは怪物で化け物だけど、本当の意味で怪物で化け物なのはオティークなのか、親なのか、少女、それとも世の中…。

最近、超にわかにシュヴァンクマイエルにハマっているが、どうも食べ物や、食欲に関する作品が、よくあるような気がする。
それが、一体どんな意味のこもった記号なのか、まだ皆目見当も付かない。

だが「オテサーネク」に関しては、食欲に加えて、性の問題(家族が欲しい、子どもが欲しい、不妊…等々)も絡んでいるような気がするから、ホラー(?)と見せて、実はめちゃくちゃ意味深長な映画なのかな?と思ったり…。

そんな夜でした。